club"Numbers" backyard


色々注意

※ホストクラブパロです※

・山もオチもない。ただ煙草を吸う描写と舌ピアスが書きたかっただけ。






広いとは言えない空間に、いくつかのソファが置かれている。
ぼんやりとした色調の壁紙にカレンダーや何枚もの紙が貼られ、店で取り扱っている酒のポスターが並んでいた。
中央のラグマット、低めのテーブル。
背の低い棚には、誰かの忘れ物のような雑多な物が入れられ、上にはラジオまでもが載っている。

豪奢な造りのホールとはまるで別の世界のような、簡素なバックヤード。
そこは、ここで働く従業員たちが使う休憩室だった。



そんな場所で、フラッシュは一人ソファに体を預けていた。
時計の針はまだ夕刻前で、店の開店時間には早すぎる。


しかし、そんなの構わないという風に、彼は仕事用のドレスシャツを着込みくつろいでいた。
彼の座る隣には、皺にならない様に暗色のジャケットが掛けられている。



今日のシフトは早番で、開店時間から店に出なければならなかった。

それでもこんな早い時間に来る必要などなかったが、中途半端に家で過ごすよりは早めに出勤して準備でもしていた方がましだ。

幸い、今日のメンバーには口煩い奴もいない。

いつも一番に出勤してくるクイックも、休憩室でだらだらと時間をつぶすようなことは殆どないので、くだらない言い争いにもならないだろう。
邪魔されることもなく、マンガでも読みながら食事ができると踏んでいた。



誰もいないキッチンスペースを少々拝借し、簡単な食事を用意して休憩室に持ち込む。
誰が持ってきたのか、巻数の揃った漫画本から読みかけのものを取り出すと、割りばしを口に咥える。
パキっと小気味の良い音がし、それは二本に分断される。
湯気を立てる羹に箸を浸すと、箸先から小さな気泡が立ち上った。


急いでるわけではないが、冷めないうちにと口を付ける。


 

しばらく食器の音だけが響いた後、フラッシュは器を置くと、テーブルに視線を走らせた。


そこには、小物入れと並んで、すっかりゴミ入れになっている灰皿があった。
この店は、ロボットばかりが働くクラブなのだ。
吸い殻を入れる容器など殆ど使われることはない。


それでも、フラッシュは灰皿に手を伸ばすと、中のゴミをゴミ箱に空けた。
そして、おもむろにジャケットを探ると、ポケットから煙草の箱を取り出した。


箱の角はやや丸みを帯び、中身は半分ほどに減っている。
銘柄はごくありふれたもの。
いつだったか、客の一人が試しにどうかと寄越したものだ。


フラッシュは、同じくテーブルの上の小物入れから店名入りの安っぽいライターを引き抜いた。
これは、前回自身が持ち込んで入れておいたものだった。

元々紫煙を喫する趣味など持ち合わせていないので、ライターを持ち歩く必要性を感じなかった。
それに、彼が煙を燻らすのはこの休憩室だけ、それも仕事前の一時だけだと決めていたのだ。


二箱目を買うつもりはなかったし、自室が煙臭くなるのは不快だったので、これくらいでちょうど良かった。


 


煙草 とは言え、ヒューマノイドにとってはただの煙だ。
うまくもなければ、毒にも薬にもならない。
しかし、人間が煙を吐き出し一服する姿を見慣れているせいで、同じようにすれば自分も不思議とリラックスするような気がしていた。



口の開いた箱から、無造作に一本取りだすと、浅く口に咥える。
ライターに火を灯して、煙草の先に揺らぐ炎を持って行く。
点火する際に手を添えるのは、ちょっとした癖だった。
癖というよりも、客の煙草に火を点ける時の習慣と言った方が正しいか。


白い包紙とともに、葉がちりちりと赤くなってゆく。


肺なんて元より存在しないが、吸気を作れば口の中に煙が流れ込む。
決して美味いとは言えない、苦い匂い。

こんなものを好んで喫うなんて、人間は物好きだとぼんやり考える。
こうして自分も喫っていては、何を言っても仕方がないが……。

 


ふぅと息を吐くと、白い煙が細く立ち上った。
それはため息の様で、肩の力も一緒に抜けて行く。
長く吐き出した瞬間は、頭の中も体の中も空っぽになったような気がした。



一呼吸おいて、たばこをくわえ直す。
先端に出来た暖かい灰。今にも落ちそうなそれを、そっと灰皿にのせた。


フラッシュは、ソファに深く掛けると取り出しておいた漫画本を開いた。
まだ時間はたっぷりある。しばらくはこうして煙を纏っていようと思った。


矢先だった。


「あれェ?」
がちゃりと開けられた扉から、ひょっこり顔を出したのは、見なれた青年。
緑を纏った後輩機だった。



面倒な奴が来た、とフラッシュは内心顔をしかめた。
仲が悪いわけではなく、むしろ性格も似ており話も合うのだが、一人でゆっくりしようとしたばかりなのだ。


多弁な彼――スネークはそういう意味で都合が悪かった。


「センパイ、早いッスねェ。」
そんなフラッシュの心中など関係なしに、スネークは部屋の中に入ると、向かい側のソファにどすんと腰を下ろした。
緑のシャツ。スーツはすでに着崩されジャケットの前は当然の様に開けてある。
その癖、装飾は首元からカフスに至るまですべてしっかりと付けられているのだから面白い。


フラッシュは、「おぅ」と適当な返事をし、ちらと一瞥するとすぐに本のページを捲りにかかった。
しかし、今しがた来たばかりのスネークがそれを許さない。


「センパーイ、タバコですかー?」
彼は覗き込むようにフラッシュの視界に入ってくると、顔をしかめる。
「焦げ臭いですって!」
そうして、わざとらしく手をパタパタと振って見せた。
煙草の煙を払っているつもりらしい。


「別にいいだろ。」
そんなスネークから顔をそむけ、フラッシュはもう一口と煙を吸った。
今度は真上に向かってそれを吐き出す。一応、スネークへの配慮のつもりだ。


しかし、そんな行為は無意味だという風に緑の彼は尚つっかかる。
「よくないです!オレのセンサーがヤニで目詰まり起こしたらどーすんですか!」


ツイてないな、とフラッシュはげんなりした。
こうなってしまっては、おそらく彼は煙草を置くまで黙らないだろう。
蛇をモチーフにしているだけあって、こいつは一度始まれば相当しつこい。
ここで煙を吐く限り、彼は延々恨み言を言い続けることは容易に想像できた。


フラッシュはじっとりと絡みつく視線を払う様に、ちっと舌打ちして煙草を灰皿に置いた。
「ほら、これでいいだろ。」
「さっすが、話が分かりますネ!」
それをみて、スネークはころっと表情を変える。
先ほどまでとは打って変わって、邪気のない笑顔で言う。


こういう部分があるせいで、邪険には扱い辛いのだとフラッシュはため息をついた。
単に、そう見せているだけかもしれないが、それを知る術はないのだから同じことだ。


当のスネークは、ため息等聞こえなかったようで、ご機嫌に机の上に手を伸ばしていた。

先ほどフラッシュがライターを探り出した小物入れに手を入れ、混ぜ返したかと思うと、個包装の飴を取り出す。
端を切ると、ビー玉を思わせる飴玉が顔をのぞかせる。
スネークは白い手袋をした指でそれをつまんで、ひょいと口の中に放り込んだ。


その際に、彼の口の奥で何かがちらりと光ったようだった。

「お前、今、口の中。」


フラッシュが、にわかに驚いた声を上げる。
すると、スネークはにんまりと笑った。
そして待ってましたとばかりに、長い舌をべぇと出す。
「どーですか。」


そういった彼の先割れの舌には、ちょうど中心部分にキラリと一つ、石が光っていた。
カラカラと飴を転がす音が聞こえる。


「ピアスか?」
そんなのいつ開けたんだ、とフラッシュは目を見開いた。
「今日開けたばっかですよー。」
キレーでしょー、とスネークは舌を動かして見せた。
その度に、人工皮膚の舌よりも紅い石が光を受けて輝く。
良く見れば、それは彼が付けている装飾類と同じ石のようだ。


「そんなモンつけて、味変わったりしねーの。」
フラッシュは呆れたように聞いた。
聴きたいのはもちろんそんなことではないが、特に良い質問も思い浮かばなかった。


「大丈夫ですよ。人間と違って炎症になることもないんで、楽なもんです。」
スネークはそう告げてクツクツと笑った。
「傷んで来たら、メンテの時に舌換えてもらうんで。」
さもない事の様にいうスネーク。


人間と違う――ヒューマノイドであることを常に楽しむような彼の暮らし方には、本当に頭が下がるとフラッシュは思った。
元々彼は工業用ロボットなのだ。消耗が激しい仕事には、当然パーツの交換がついてまわる。
彼は自分の身体の一部を換えることに対して抵抗がないのだ。


「お前、あんまりムダなことばっかするなよ。」
「いーんですっ。俺、最近けっこー稼いでるんで。」
軽い調子で話す彼の口元からは、キラキラと光が見え隠れする。


「センパイもどーですか。」
「オレはエンリョしとく。」
ずいと身を乗り出し気味なスネークを抑えるように言うと、フラッシュは手元の漫画本に視線を落とした。
この緑の彼が来てから、1頁も進んでいないことに気が付いたのだ。
それを見てスネークは、残念だという様に「似合いそうなのに。」とだけつぶやいた。



「センパイって、なんだかんだいってマジメっすよねー。」
「おー、お前よりはな。」
「そういうコトいいますかねェ。」


勿体ない、と言いかけて、スネークはその言葉を飲み込んだ。
まだ開店まで時間があるが、ここでばかり油を売っていてはそのうち邪険にされてしまう。
何よりも、本に目を落とし始めた目の前の青年は、これ以上何を言っても生返事だろう。


スネークは立ち上がると、部屋を出ようと扉に手をかけた。
またあとで、と軽く声をかけるが、返ってくるのはやはり生返事だけだ。


「俺達には俺達なりの楽しみ方、あると思うんですよね。」
背を向けて、言う彼の舌先には、変わらず紅い石が光っていた。

 



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 backyard
 

ホストパロディより、二人。


あ、ちなみにふくろラーメン喰ってます。


フラッシュは自分に対して説教とかせずに要望を伝えてくる相手に弱い。

 

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2012.11.30 仮想と妄想の狭間。クロ.. c

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