メタリカ


 

「お母さん、このサラダはもう持って行ってもいい?」
 
ピンクのリボンが結ばれた二つ結びの栗髪、クリクリとした目を持つ可愛らしい女の子が言った。
彼女はキッチンカウンターに手を伸ばし、出来立てのサラダが盛られたボウルを持ち上げる。
 
「うん、お願いね。フォークも人数分だしてね。」
 
お母さん、と呼ばれた女性はにこにこと少女に笑いかけた。
ヒーターに掛けられた鍋からは煮込まれた野菜のいい匂いが漂い、彼女の手元には綺麗に取り分けられたメインディッシュが並ぶ。
少女は元気に返事をし、「美味しそう!」と目を輝かせながらそれらをダイニングテーブルに運んで行った。
 
「今日の夕食も美味しそうだね。配膳手伝うよ。」
 
皿を手にテーブルにむかう娘と入れ違いに、青年が顔を出した。
キッチンに立つ女性は彼の方に振り返り、ありがとうと笑顔を見せる。
彼も彼女に微笑み、料理中の彼女にキスをした。
 
「大丈夫よ、あなた。もう終わるから、テーブルについていてね。」
 
女性はお玉で鍋をひと混ぜし、夫である男性に言う。
男性はいつもありがとう、と再びキスをし、テーブルで配膳を手伝う娘の元に行った。
 
時計はもうすぐ18時を指す。
家族が揃い、これから団欒の夕食が始まるのだ。
 
素直で可愛らしい娘と、少し気弱だが家族思いの夫。
キッチンに立つ女性は、ささやかな幸せを感じていた。
ダイニングが、香ばしい食事の香りで満たされる。



 



_____________________________________________________________________________________

 
メタリカ

日記ログより、「メタリカ」前篇。



 

感想・誤植指摘・苦情等はこちらから(拍手)





diary log

2009.2.02 仮想と妄想の狭間。クロ.. c

inserted by FC2 system