悪夢







 

「――――ッ!!」

声にならない悲鳴だった。
ガタンという派手な音をたてて一人の女性がベッドから飛び起きる。
彼女は薄い寝間着が透けるほどその身体を汗でびっしょりと濡らし、肩を上下させて呼吸をしていた。

女性は肩にかかる黒髪を乱し、憔悴しきったような顔をしていた。
手を額に当てると、肌に張り付いた髪がまとわりつく。
流れる汗が手に冷たい。

「はぁ……。」

彼女は大きくため息をつくと、自分が自室のベッドの上にいることを確認し、安堵した。
時計の針は3時を指している。

「……夜風にでも当たろうかな。」

は乱れた髪を手櫛で整えると、肌掛けを取り払ってベッドから立ち上がった。


ひたひたと自身の足音だけが広い廊下に響く。
何を思っていたか裸足で出てきてしまったせいで、歩く足の裏が冷たかった。

「何やってんだろう…。」

自嘲気味に独り言を言う。
しかし彼女の声に応える者はおらず、その言葉は夜の闇にすうっと吸い込まれていった。

誰もいない廊下は思っていた以上に広く、さびしく感じた。

思えば、ここに来てから悪夢など見たのは初めてかもしれない。
以前の記憶を持たない自分には、悪夢にするだけの思い出や経験がなかったのだ。
しかし、ここにきて仲間たちと過ごすうちに、夢を見るに十分な記憶が蓄積されたのかもしれない。

その割には、見たことのないような景色だった気もするが…。


深い闇の中で蠢く何か。
ぎしぎしと金属の軋む音と、背を這うようなぞわぞわとした感覚。
かすかに見えるのは機械のコードだろうか。
歯車やプレスの音が耳ざわりだった。

暗い世界の中で、誰かの呼びかける声が……。


はそこまで考えると首を横に振った。


考えても仕方ないのだ。
思い返したところで、恐怖がよみがえってくるだけだ。
夢の世界など、自分の考えや行動の及ぶところではない。

気づくと彼女は台所の前まで来ていた。

そういえば、沢山汗を掻いたせいもあり喉がからからだった。

何か喉を潤すものを持ってから夜風にあたろうか。
彼女は勝手をよく知る台所に足を踏み入れると、電気も点けずに冷蔵庫を開けた。


並ぶのはE缶や水のペットボトル。
どうしようかと少し考えた末、彼女は水のボトルを手にとった。

 







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tender nightmare







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2008.9.04 仮想と妄想の狭間。クロ.. c






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